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千葉地方裁判所 平成6年(行ウ)11号 判決 1996年3月08日

千葉県市川市伊勢宿一六番八号

原告

早川和則

右訴訟人弁護士

佐藤義行

後藤正幸

千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号

被告

市川税務署長 功刀榮夫

右指定代理人

湯川浩昭

田部井敏雄

今井廣明

佐久間光男

佐藤大助

神谷信茂

清水守

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

被告が原告に対し平成三年二月二〇日付けでした原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分の各所得税の更正処分のうち、昭和六二年分の所得金額二二五万三二九二円・所得税額二五万七五〇〇円を超える部分、昭和六三年分の所得金額二四八万七三八六円・所得税額二四万八七〇〇円を超える部分、平成元年分の所得金額三一四万九九八五円・所得税額三二万九八〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

第二当事者の主張

一  請求原因(更正処分等の経緯)

1  原告は、中華料理飲食業を営む事業所得者である。

2  原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(以下「本件各係争年分」という。)の各所得税に係る確定申告、更正処分、過少申告加算税賦課決定処分、異議申立て、異議申立てに対する決定、審査請求及び裁決は、昭和六二年分は別紙一記載のとおり、昭和六三年分は別紙二記載のとおり、平成元年分は別紙三記載のとおりである(以下、右の各更正処分(但し、平成元年分については裁決による一部取消後のもの)を「本件各更正処分」という。)。

3  しかしながら、本件更正処分のうち、昭和六二年分の所得金額二二五万三二九二円・所得税額二五万七五〇〇円を超える部分、昭和六三年分の所得金額二四八万七三八六円・所得税額二四万八七〇〇円を超える部分、平成元年分の所得金額三一四万九九八五円・所得税額三二万九八〇〇円を超える部分は、いずれも過大であって、違法として取り消されるべきである。

4  よって、原告は、本件各更正処分のうち、右過大部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、同3は争う。

三  抗弁(処分の適法性)

原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、推計の方法により算出すると、本件各更正処分で被告が認定した事業所得の金額を上回るものである。

1  推計の必要性

(一) 原告は青色申告の承認を受けた個人事業者であったが、被告の係官が、平成二年九月二六日、原告の所得税調査のため原告の事業所に赴き、原告に対し本件各係争年分の帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、「事業所得に係る帳簿は備え付けていないが、帳簿に代わるものとして本件各係争年分の売上金額及び必要経費を記載した集計表がある。」旨等を述べ、右集計表と平成元年分の必要経費に関する領収証等を提示したが、本件各係争年分の売上金額並びに昭和六二年分及び昭和六三年分の必要経費に関する原始資料については、「平成元年九月頃に虫が湧いていたので廃棄した。」旨を述べてこれを提示しなかった。

したがって、右集計表に記載された売上金額の真偽を判断することはできず、また、昭和六二年分及び昭和六三年分の必要経費の当否も判断することができない。

(二) このように、原告は青色申告者の備え付けるべき帳簿を備え付けておらず、平成元年分の必要経費に関する領収証等のほかは原始資料も保存しておらず、しかも右領収証等には事業所得の必要経費に該当しない私的な家事関連費を示すものも含まれていたため、被告は、実額計算の方法により原告の事業所得の金額を算定することは不可能であると判断し、平成三年二月二〇日付けで、昭和六二年分以降について青色申告の承認を取り消すと共に、やむを得ず推計の方法により事業所得を算定して、本件各更正処分を行ったものである。

原告の本件各係争年分の事業所得の金額の計算に当たっては、推計の方法を用いる必要性があった。

2  事業所得の金額の推計

被告が主張する原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、左記(一)記載の事業所得に係る推計総収入金額に、後記(二)記載の青色申告の承認を受けた同業者の平均特前所得率(総収入金額に対する左記特前所得金額の割合を平均した数値)を乗じ、これによって後記(三)記載の特前所得金額(総収入金額から売上原価その他の経費の額を控除した青色申告特典控除前の所得金額)を算出し、この金額から後記(四)記載の事業専従者控除額を控除した金額である。

(一) 推計総収入金額

昭和六二年分 二四二八万六五九一円

(二万〇八七四玉×一二九・〇四円×〇・九〇一二)

昭和六三年分 二四四五万六四六〇円

(二万一〇二〇玉×一二九・〇四円×〇・九〇一二)

平成元年分 二五三万一六二九円

(四八六〇玉 ×一二九・〇四円×〇・九〇一二)

+一万五二八〇玉×一二九一・〇四円)

(1) 右金額は、原告の営む中華料理飲食業に係る推計総収入金額であるが、これは、原告が有限会社松下製麺所から仕入れた中華麺の実総玉数(昭和六二年は二万〇八七四玉、昭和六三年は二万一〇二〇玉、平成元年の一月から三月までは四八六〇玉、同年の四月から一二月までは一万五二八〇玉)に、左記(2)記載の中華麺一玉当たりの売上金額一二九一・〇四円をそれぞれ乗じ、更に、原告が平成元年四月一日以降料金を改定しているので、それ以前の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年一月から三月分までについては後記(3)記載の調査率〇・九〇一二をそれぞれ乗じて算出した金額であり、その内訳は別紙四のとおりである。

(2) 右中華麺一玉当たりの売上金額一二九一・〇四円は、平成二年九月二七日から同年一〇月二三日までの期間における原告の実売上金額をレジペーパーによって把握し、これを右期間の中華麺の実仕入玉数で除した金額である。

(3) 右調整率〇・九〇一二は、右料金改定前の価格による加重平均価格四八三・七二円(右期間の会計票に記載された売上品目別単価を右料金改定前の品目別単価に置き換えて計算した右期間の旧料金による売上金額合計三四万一五一〇円を、右期間の売上品目数量七〇六で除したもの)を、右料金改定後の価格による加重平均価格五三六・七七円〕右期間の実売上金額三七万八九六〇円を、右期間の売上品目量七〇六で除したもの)で除した数値であり、その詳細は別紙五のとおりである。

(二) 同業者の平均特前所得率

昭和六二年分 〇・二九四九

昭和六三年分 〇・二八一八

平成元年 〇・三〇一八

(1) 右数値は、本件各係争年分において次の<1>ないし<7>の抽出基準の全てに該当する者を原告の同業者として漏れなく抽出し、別紙六ないし八のとおり、各年分毎に、右同業者の事業所得に係る総収入金額に対する特前所得金額の割合(特前所得率)を平均した数値である(但し、小数点第五位以下は四捨五入)。

<1> 中華料理業を営む、青色申告の承認を受けている個人の事業所得者。

<2> 市川税務署長に所得税の確定申告書を提出している者のうち、市川市行徳地区(郵便番号が二七二-〇一である地区)に納税地及び事業所を有する者。

<3> 自己所得の店舗(事業所)で当該事業を営んでいる者。

<4> 所得税青色申告決算書において、給与賃金の支払いがある従業員のいる者。

<5> 事業所得に係る総収入金額が次の範囲内(原告の本件各係争年分の総収入金額の二分の一以上二倍以下)にある者。

昭和六二年分については、一二一四万三二九六円以上四八五七万三一八二円以下。

昭和六三年分については、一二二二万八二三〇円以上四八九一万二九二〇円以下。

平成元年分については、一二六九万〇八一五円以上五〇七六万三二五八円以下。

<6> 年を通じて、右<1>の事業を継続している者。

<7> 次のイ及びロのいずれにも該当しない者。

イ 災害等により経営状態が異常であると認められる者。

ロ 更正または決定処分がされている者のうち、次の(a)または(b)に該当する者。

(a) 当該処分について国税通則法または行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していない者。

(b) 当該処分に対して不服申立てがなされ、または訴えで提起されて現在審理中である者。

(2) 右のとおり、右同業者抽出基準は、業種、地域、事業規模等の点で原告と類似する青色申告者を対象としており(なお、<4>で「給与賃金の支払いがある従業員のいる者」に限定したのは、原告の営む事業に青色事業専従者以外の従業員が従事していたためである。)、かつ、被告は本件各係争年分において右抽出基準の全てに該当する者を漏れなく抽出しており、その抽出に恣意が介在する余地はないから、原告の真実の所得金額を推計するに当たり、前記総収入金額に右平均特前所得率を乗じて原告の特前所得金額を計算することには合理性がある。

(三) 特前所得金額

前記(一)記載の本件各係争年分の総収入金額に右(二)記載の各年分の同業者の平均特前所得率をそれぞれ乗じると、原告の本件各係争年分の特前所得金額は次の金額となる。

昭和六二年分 七一六万二一一六円(二四二八万六五九一円×〇・二九四九)

昭和六三年分 六八九万一八三〇円(二四四五万六四六〇円×〇・二八一八)

平成元年分 七六六万〇一七六円(二五三八万一六二九円×〇・三〇一八)

(四) 事業専従者控除額

昭和六二年分 四五万円

昭和六三年分 四五万円

平成元年分 四七万円

右金額は、原告の事業専従者実弟早川幸夫(以下「幸夫」という。)に係る所得税法五七条三項(昭和六二年分及び昭和六三年分については昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)所定の事業専従者控除額である。

(五) 事業所得の金額

前記(三)記載の本件各係争年分の特前所得金額から右(四)記載の各年分の事業専従者控除額をそれぞれ減じると、原告の本件各係争年分の事業所得の金額は次の金額となる。

昭和六二年分 六七一万二一一六円(七一六万二一一六万-四五万円)

昭和六三年分 六四四万一八三〇円(六八九万一八三〇円-四五万円)

平成元年分 七一九万〇一七六円(七六六万〇一七六円-四七万円)

3  処分の適法性

したがって、原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、いずれも本件各更正処分が認定された事業所得の金額(昭和六二年分は五七六万三九一二円、昭和六三年分は六一三万一三八六円、平成元年分は七一七万七四八五円)より多いものであるから、本件各更正処分は結局適法である。

四  原告の主張

原告と幸夫は所得税法五七条三項所定の「生計を一にする親族」には当たらないから、原告の事業所得の金額の計算に当たっては、原告が幸夫に支給をした給料及び賞与(以下、これらを併せて「給与」という。)の全額を必要経費に算入して控除すべきであり、前記三の2の(四)記載の事業専従者控除額のみを控除するのは違法である。

1  生計を一にする親族

原告は、本件各係争年分当時、実弟幸夫を雇用して原告の営む中華料理飲食業の出前及び食器洗いに従事させており、その対価として、昭和六二年は合計三一八万円の、昭和六三年は合計三三〇万円の、平成元年は合計三六五万円の給与を幸夫に支給していた。右の給料は他の従業員と同様に毎月一〇日に定期に支給され、右給与に係る所定の所得税も源泉徴収されて国に納付されていた。

もっとも、原告は、昭和五六年三月に幸夫を青色事業専従者として届け出ているが、これは原告の無知と誤解によるものである。本件各係争年分当時、原告及び幸夫は父早川佐善(以下「父と佐善」という。)及び母早川きよ子(以下「母きよ子」という。)と父佐善所有の家屋で同居していたが、父佐善及び母きよ子はそれぞれ会社に勤務して給与を得ており、原告は毎月四万円を、幸夫は毎月二万円を食費(一日二食分)及び水道光熱費等として母きよ子ないし父佐善に支払い、原告及び幸夫はその他の日常の生活費を各自が支出していたものであり、右四名は、各自預金通帳を保有し、互いの収入・支出・預金の額に干渉せず、各自の責任と計算で生計を営み、自動車や衣類も各自で購入していたのである。

したがって、原告と幸夫は所得税法五七条三項所定の「生計を一にする親族」には当たらないものである。

2  事業所得の金額

そこで、別紙一ないし三に記載された被告認定による本件各更正処分の事業所得の金額から、右1記載の原告が幸夫に支給した各年分の給与の額をそれぞれ減じ、これに前記三の2の(四)記載の各年分の事業専従者控除額をそれぞれ加えると、原告の本件各係争年分の事業所得の金額は次の金額となる。

昭和六二年分 三〇三万三九一二円(五七六万三九一二円-三一八万円+四五万円)

昭和六三年分 三二八万一三八六円(六一三万一三八六円-三三〇万円+四五万円)

平成元年分 三九九万七四八五円(七一七万七四八五円-三六五万円+四七万円)

3  課税所得金額・所得税額

(一) そして、右2記載の本件各係争本分の事業所得の金額から、原告の各年分の所得控除金額(昭和六二年分は七八万〇六二〇円、昭和六三年分は七九万四〇〇〇円、平成元年分は八四万七五〇〇円)をそれぞれ減じると、原告の本件各係争年分の課税総所得金額は次の金額となる

昭和六二年分 二二五万三二九二円(三〇三万三九一二円-七八万〇六二〇円)

昭和六三年分 二四八万七三八六円(三二八万一三八六円-七九万四〇〇〇円)

平成元年分 三一四万九九八五円(三九九万七四八五円-八四万七五〇〇円)

(二) したがって、原告の本件各係争年分の所得税額は、次の金額となる。

昭和六二年分 二五万七五〇〇円

昭和六三年分 二四万八七〇〇円

平成元年分 三二万九八〇〇円

五  被告の主張

原告と幸夫は所得税法五七条三項所定の「生計を一にする親族」に当たるものである。

本件各係争年分当時、原告及び幸夫は、原告が平成元年九月に妻良子と結婚するまではいずれも独身で、両親と同一家屋に居住し、石鹸・タオル等の生活用品の購入は母きよ子が行い、食事もきよ子が作っており、原告と幸夫は、父佐善の所有家屋に居住しながらその家賃の支払いをしておらず、右家屋に係る電機・電話・ガス・水道の公共料金や自治会費も父佐善が支払っていたものであり、また、原告は父佐善所有の敷地上に事業店舗を所有しながら父佐善にその地代の支払いをしておらず、幸夫の負担すべき国民年金の保険料及び平成元年度国民健康保険の保険料も原告が負担しており、幸夫の国民健康保険料についての社会保険料は原告が申告していたのである。

これらの事実に照らせば、本件各係争年分当時、右四名は「生計を一にする親族」であったと認めるべきであり、現に、原告自身、自己と幸夫とが「生計を一にする親族」であることを自認してわさわざ幸夫を青色事業専従者とする届出書を被告に提出しており、そして、昭和五六年分から本件各係争年分に至るまで、幸夫に対する給与を青色事業専従者給与とする所得税青色申告を続けていたのである。

更に、そもそも、原告が幸夫に対してその主張に係る金額の給与を支払っていたかも疑問である。

理由

一  更正処分等の経緯

請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  推計の必要性

証拠(乙二五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば抗弁1の(一)の事実が認められ、右事実によれば、原告の本件各係争年分の事業所得の金額の計算に当たっては推計の方法を用いる必要性があるものと認められる。

三  事業所得の金額の推計

原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、右推計を必要とする事由に鑑みれば、被告主張のとおり、事業所得に係る総収入金額を推計し、これに推定同業者特前所得率(青色申告の承認を受けた原告の同業者の事業所得に係る総収入金額から売上原価その他の経費の額を控除した青色事業専従者給与控除等の青色申告特典控除前の所得金額(特前所得金額の右総収入金額に対する割合)の平均値を乗じる方法によって算出するのが妥当である。

1  総収入金額の推計

(一)  証拠(甲八の1、2、乙二五、二六の1ないし3、二七、二八、二九の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、<1>原告はその営業に必要な中華麺を有限会社松下製麺所から仕入れており、原告が本件各係争年分に同社から仕入れた中華麺の実総釜数は抗弁2の(一)の(1)記載のとおりであること、<2>平成二年九月二七日から同年一〇月二三日までの期間における原告の実売上金額は一三三万六二三〇円であり、これを原告が右期間に同社から仕入れた中華麺の実玉数一〇三五玉で除した金額は一二九一・〇二円であること、<3>原告は平成元年四月一日に料金を改定しているが、右料金改定後である右平成二年九月二七日から同年一〇月二三日までの期間の原告作成の会計票に記載された売上品目数量は合計七〇六であるところ、その実売上金額は三七万八九六〇円であり、これを右改定前の料金で計算し直すと三四万一五一〇円とあり、後者を前者で除すると〇・九〇一二となること、が認められ、以上によれば、別紙四及び五に記載のとおり、原告の本件各係争年分の総収入金額は、抗弁2の(一)記載のとおり、次の金額と推計される。

昭和六二年分 二四二八万六五九一円

昭和六三年分 二四四五万六四六〇円

平成元年分 二五三八万一六二九円

(二)  そして、右推計の方法には合理性があるものと認められる。けだし、原告の営む中華料理飲食業にあっては、中華麺の仕入個数と売上金額とは概ね比例しているものと推知され、また、その比例の割合を計算する期間として平成二年九月二七日から同年一〇月二三日までを設定したことも妥当といい得るからである。料金改定に伴う調整率の算定にも問題があるとは認められない。

2  同業者の平均特前所得率

(一)  原告が中華料理飲食業を営む事業所得者であることは前記のとおり当事者間に争いがなく、証拠(乙一、一一、一二、一七ないし一九、二六の1ないし3、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の店舗は市川市行徳地区に所在し、原告がこれを所有していること、原告は本件各係争年分に幸夫のほか実姉早川明美等を従業員として雇用し、給与賃金を支払ったこと、原告は年を通じて右事業を継続していたことが認められる。

(二)  そこで、抗弁2の(二)(1)記載の<1>ないし<7>の基準の全てに該当する者を漏れなく抽出すれば、それによって原告の同業者の特前所得率が推定される。これによれば、本件各係争年分の同業者の平均特前所得率は、抗弁2の(二)記載のとおり、昭和六二年分が〇・二九四九、昭和六三年分が〇・二八一八、平成元年分が〇・三〇一八となる。(乙八、九の1ないし3)

(三)  そして、右抗弁2の(二)の(1)記載の<1>ないし<7>の抽出基準は、業種、業態、事業地域、事業規模、従業員の有無等において原告と類似性を有する同業者の抽出を可能にするものであって、同業者抽出基準として合理性を有するものと認められる。

3  特前所得金額

そうすると、原告の本件各係争年分の特前所得金額は、抗弁2の(三)記載のとおり、次の金額と推計される。

昭和六二年分 七一六万二一一六円

昭和六三年分 六八九万一八三〇円

平成元年分 七六六万〇一七六円

4  事業専従者控除

(一)  原告は、原告と幸夫とが所得税法五七条三項所定の「生計を一にする親族」に当たらないから、原告が幸夫に支給した給与の全額を必要経費に算入して右特前所得金額から控除すべきである旨を主張する。

しかし、仮に原告主張のとおり幸夫が原告と生計を一にしない親族であるとしても、前記2の(二)記載のとおり、原告の本件各係争年分の特前所得金額は、給与賃金の支払いがある従業員のいることをも考慮した上で推定された平均特前所得率を用いて推計されたものであり、既に従業員に対する給与の額は評価控除済みといえるものであるから、原告が幸夫に支給した給与の額を改めて右特前所得金額から控除することはできないものというべき理であり、原告の右主張は、本件においてはそれ自体失当というべきである。

そうすると、原告の事業所得の金額は、右特前所得金額と同額の、昭和六二年分が七一六万二一一六円、昭和六三年分が六八九万一八三〇円、平成元年分が七六六万〇一七六円となり、これは、いずれも別紙一ないし三記載の本件各更正処分における事業所得の金額(昭和六二年分は五七六万三九一二円、昭和六三年分は六一三万一三八六円、平成元年分は七一七万七四八五円)を上回るものであるから、本件各更正処分は結局適法というべきである。

(二)  他方、仮に原告と幸夫が右「生計を一にする親族」に当たるとすれば、本件各係争年分当時施行の所得税法五七条三項一号ロによって、事業専従者控除額は、昭和六二年分及び昭和六三年分につき各四五万円、平成元年分につき四七万円となり、これらの額が右特前所得金額から控除されることとなるが、しかし、これらの額を控除したとしても、原告の事業所得の金額は、昭和六二年分が六七一万二一一六円、昭和六三年分か六四四万一八三〇円、平成元年分が七一九万〇一七六円となって、いずれも右別紙一ないし記載の本件各更正処分における事業所得の金額を上回るものであるから、本件各更正処分は結局適法である。

(三)  なお、ちなみに、原告と幸夫とか右「生計を一にする親族」といえるか否かについて検討する。

(1) 証拠(甲一の1ないし3、三の1ないし3、四の1ないし9、五の1、2、六の1ないし3、七、一一ないし一三、乙一、三ないし五、七、一一ないし一四、一六ないし二三、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

イ 原告(昭和三一年二月生)は、昭和五五年四月頃、その居住する家屋と同一の敷地内に建てられた別棟の店舗で中華料理店「和幸」を開業し、同年三月に高校を卒業した実弟の幸夫(昭和三七年三月生)を使用して右の事業に従事させ、昭和五六年三月、所得税の青色申告承認申請書と共に、幸夫を青色事業専従者とする青色専従者給与に関する届出書を被告に提出し、以後本件各係争年分に至るまで、幸夫に支給した給与額を所得税青色申告決算書の「専従者給与の内訳」蘭及び所得税確定申告書の「事業専従者」蘭に記載していた。

ロ 原告は、本件各係争年分当時、幸夫のほかに、従業員実姉早川明美及び一人ないし二人のアルバイト店員を雇用して右事業に従事させていたが、幸夫については、出前及び食器洗い等の業務に従事させ、その対価として、毎月一〇日に二〇万円ないし二三万円の給料のほか、毎年八月及び一二月に賞与を支給し、昭和六二年は合計三一八万の、昭和六三年は合計三三〇万の、平成元年は合計三六五万円の給与を幸夫に支給し、右給与に係る所定の所得税を源泉徴収してこれを国に納付していた。

ハ 本件各係争年分当時、原告及び幸夫はいずれも独身であり(但し、原告は平成元年九月に結婚した。)、原告は昭和六二年二月に三一才に、幸夫は同年三月に二五才になり、父佐善及び母きよ子と共に父佐善所有の家屋(二階建居宅、一階約七八平米、二階三七平米)に同居していたが(但し、平成元年九月以降は原告の妻良子も同居した。)、父佐善は日本ロール製造株式会社に、母きよ子は有限会社原運輸に勤務してそれぞれ給与を得ており、右四名は各自預金口座を保有してこれを管理していた。そして、家事は主にきよ子が担当し、右同居に係る食費は父佐善及び母きよ子が第一次的に負担し、右家屋(居宅)に係る電気・電話・ガス・水道の公共料金も父佐善が支払っていた。しかし、原告は毎月四万円を、幸夫は毎月二万円をそれぞれ朝・夕の食費等として母きよ子に支払い、なお、幸夫が負担すべき国民年金保険の保険料及び国民健康保険の保険料を原告が支払っていた。

(2) 右事実を総合すると、本件各係争年分当時、原告及び幸夫とその両親と共に同一家屋に居住していたとはいえ、幸夫は、単なる小遣いないしはその生活費の援助としてではなく、原告の事業に従事したことの対価として原告から毎月定期に給与を支給されていたものであり、その給与の中から毎月二万円を自己の食費等として母きよ子に支払い、そしてその余の金員は自己の責任と計算においてこれを自由に使用していたものであるから、もはや幸夫は原告とは独立した生計を営んでいたものと認むべきであって、原告と幸夫は所得税法五七条三項所定の「生計を一にする親族」に当たるとはいえないというべきである。

(3) 原告と幸夫とが父佐善を世帯主として住民登録されていること、原告が幸夫の負担すべき国民健康保険の保険料を支払って所得税法七四条一項所定の社会保険料として申告していること、等の事実を併せ考慮しても、未だ右判断を左右するには足りない。

四  事業所得の金額・処分の適法性

以上のとおりであって、原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、前記4の(一)または(二)記載の金額となり、そして、それは原告と幸夫が所得税法五七条三項所定の「生計を一にする親族」に当たるか否かにかかわらず、いずれにしても、別紙一ないし三記載の本件各更正処分における事業所得の金額を上回るものであるから、本件各更正処分は結局適法である。

五  結論

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないことからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田敏章 裁判官 木納敏和 裁判官 有賀直樹)

別表一

昭和六二年分

<省略>

別表二

昭和六三年分

<省略>

別表三

平成元年分

<省略>

別紙四

1 中華麺の取引(仕入)状況

<省略>

2 把握期間の中華麺1玉当たりの売上金額算定表

<省略>

3 総収入金額の算定表

<省略>

別表五

加重平均価格による料金改定に係る調整率の算定

<省略>

(1) 改定後の会計票の合計金額は、平成2年9月27日から同年10月23日までの会計票の売上金額の合計金額である。

(2) 改定後の合計数量は、平成2年9月27日から同年10月23日までの会計票の数量欄の合計である。

(3) 改定前の会計票の合計金額及び合計数量は、平成2年9月27日から同年10月23日までの会計票の当該各数値を改定前の数値に置き換えて算出した。

(4) 加重平均価格は、会計票の合計金額を合計数量で除した平均価格である。

別紙六

昭和62年分 同業者率算定表

<省略>

別紙七

昭和63年分 同業者率算定表

<省略>

別紙八

平成元年 同業者率算定表

<省略>

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